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LION(ライオン) 25年目のただいま(映画)

評価★★★★+(4.5)

事実は小説より奇なり。映像で奇跡を再現しても、人の心を強く打つのは難しい。「LION(ライオン)」は、そんな私の既成概念を易々と打ち破った。ラストで実話と分かったとき、鳥肌が立つほどの得難い感動を味わった。

結論から言えば、主人公の少年時代を演じた男児の迫真の演技が、その後の全ての流れをつくった。この映画の成功要因といっても過言ではないはずだ。

年間8万人の子が行方不明になるインド。誤って列車に乗った少年は、数日間の旅の末に着いた見知らぬ街をさ迷い歩く。小さな身体に似合わぬ大きな眼で見つめる視線には、恐怖心と好奇心が交錯する。

アジアあたりに一人で出掛け、怪しげな場所を散策していたら日が暮れてしまった。怖いけど楽しい。何とも言えないドキドキ感。そんな私の旅愁がスクリーン上と重なる。

とはいえ、彼にとっては生死を懸けた闘いである。心優しい人に助けられたと思ったら実は人売りだっり、食べ物が無くてひもじい思いをしたり…。過酷な体験を経て本当に優しい人に出会ったとき、彼の眼前に全く違う人生が開ける。

ここまでの前半戦だけでも十分楽しめる。十数億人がひしめく現代インドで、ひとたび迷子になったら今生の別れになりかねない。切実な現実が感じられた。

後半、帰巣本能がテーマとなる。養子としてタスマニアへ連れていかれた男児は、好青年に成長する。裕福な暮らしの中、ふと思い出した故郷に心奪われる。

旅立ちの駅の横にあった給水塔、誰に尋ねても知らないと言われる村の名前…。記憶の断片が蘇る。そして、大学生になり身につけた知恵が、故郷探索の希望の灯となる。

失踪当時の列車の走行速度と駅の給水塔を手掛かりに、Googleマップを使って地道に探す。最先端機器と原始的手法のコラボ。取り憑かれたように画面と向き合う青年の表情は、痛々しくも使命感に満ちる。

一方、養母や恋人との揺れ動く関係性は、物語の横軸として上手く機能していた。よき人との出会いが、不幸な体験を乗り越えた青年の運命として相応しい。

最終的には、偶然の産物として故郷を発見する。いささか出来すぎじゃないのと思わなくもないが、そこに至る気の遠くなるような過程を忘れてはいけない。奇跡は、それ相応の努力をした者にしか訪れない。スポーツなどにも通じる普遍の原理である。

25年ぶりに母親と再開するシーンは感動的だ。ラストにはフィクションではない、もう一つのエンディングが待ち受ける。まさに大団円だった。